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何度も何度も後悔し損ねてきて、それでもいいと思っていた。
けれど、今回は、今回だけは、後悔したかった。
目の前の女性のために。
自らの、未来のために。
「私は将来ね、本に携わる仕事がしたいの」
女性は静かに語りだした。
「一日中本に囲まれて、誰かと好きな本を語り合って、本の匂いを、存在を全身に受けながらお仕事ができたら、どれだけ幸福でしょうか」
そこには、僕はいるだろうか。
いや、今はそんなことどうでもいい。
そんなことは、分かりきっているのだから。
だから、今考えなくてはいけないのは、僕はどの時点で後悔をしなくてはいけないのかということだ。
「あなたは? 将来なにになりたいとかないの?」
なりたいものなんてない。
なりたいものなんて、この世のどこにもない。
「だったら、私があなたのなりたいものを作ってあげる」
優しい口調、けれどその優しさこそ、僕が最も後悔するべきことなのではないだろうか。
その優しさに、僕はきっと甘えていたのだ。
理解されていると、思い上がっていたのだ。
理解なんて、一生されるわけがないのに。
「じゃあ、早速だけれど私のお手伝い、してみない?」
当時は深く考えもせず、その選択を受け入れた。
僕と女性の結末を知った今は、相応の覚悟を持って、頷く。
この先に、後悔をしてこなかった僕が唯一後悔するべきだったと思う末路が待ち構えているから。
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