後悔

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 避けることはできた。  避けることはできたのだ。  でもそれをしてしまえば、決定的な差異が生まれてしまう。  それだけは避けなければいけなかった。  これは、やり直すことが目的ではなく。  思い出して、後悔することが目的だ。  だから、避けてはいけない。  目を逸らしてはいけないのだ。  でも、こんな光景を僕は二度も見ることになったのかと思うと、つくづく僕の人生は後悔ばかりだと思う。  どうしてこの時の僕は後悔しなかったのだろうか。  こんなことになってまで、後悔できなかったのだろうか。  視界がぼやける。  四肢が動かず、声も出せない。  全身が、痛いのか冷たいのか暖かいのか、分からない。  かろうじで動かせた首を右に傾けると、どうやら僕は地面に寝転がっているらしい。  真横になった視界の先に、それはいた。  僕と同じように、いや僕以上に全身が損傷した、一人の女性が。  そこで僕ははじめて後悔する。  どうしてあの時、僕は手伝うと言ってしまったのだろうか。  どうしてあの時、僕は突き放すことができなかったのだろうか。  どうしてあの時、僕は答えに詰まってしまったのだろうか。  どうして今日に限って、こんなにも遅い時間に帰ることになってしまったのだろうか。  今更。本当に今更だ。  当時後悔することができなくて。  そんな都合の悪いことを今までずっと忘れていて。  それでも後悔したいと、記憶を取り戻して。  今更ながら、すべてに後悔することができた。  けれど、それが何だというんだ。  僕が今更後悔したところで、何かが変わるというのだろうか。  そんなことはない。  僕が望んだのは、そんなことじゃない。  後悔したかったなんて、欺瞞もいいところだ。  僕が本当に望んでいたことは。  僕が心から願っていたことは。  幾重の欺瞞の中に隠した本懐は。  彼女の笑顔を、もう一度見たかったという。  ただそれだけだった。  後悔なんて、ずっと前からしていたじゃないか。  それでも許されないと思ったから、僕はこうして同じ記憶を消しては取り戻しての繰り返しをしているだけじゃないか。  もう二度と、後悔しないように。  もう二度と、彼女を悲しませないように。
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