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「おぉ、転校生の伊野部君と保護者方かな? お待たせして申し訳ない」
山本先生と入れ替わるように、教頭先生がソファーの傍らまでやってきた。
「海港中学教頭の野村です。どうぞよろしく」
お辞儀をする教頭先生に対して、こちらもソファーから立ち上がって挨拶をする。
「伊野部俊です。よろしくお願いします」
その挨拶に教頭先生は「うん、いい挨拶だ。礼儀がしっかりしている」と喜んでいる。
「えー、それで彼は何年何組に入る予定だったかな?」
「二年一組です」
山本先生が即答した。
「二年一組か。えっと、去年の一年一組の持ち上がりだから担任は……」
「自分ですね」
目が細い長身の男性教師が手を挙げた。
「ああ、そうだった。じゃあ伊野部君。彼が君のクラスを受け持つ担任の浜中先生だ。何かあったら彼に相談するといい」
「よろしく、伊野部君」
「よろしくお願いします」
担任との顔合わせも済み、後は教室へ行ってクラスメイトと対面。そうすれば晴れてこの海港中学の一員となる。手間もかからず、ずいぶんと簡単だ。
思えば前の学校を去るときも担任以外の教職員は意外とあっさりしていた。長い付き合いだったクラスメイト達との別れは惜しかったが、先生との別れを惜しいとは感じなかった。これもどこの学校も似たようなものなのかもしれない。
「じゃあ教室へ行こうか」
「はい」
担任の浜中先生と一緒に二年一組の教室へ。
「では保護者の方は少しだけこちらでお話を」
「あ、はい」
教頭先生が母親をソファーに座るよう促し、小走りで自分の机へと向かう。
その様子を尻目に、職員室の扉に差し掛かった時だった。扉は勢いよく開かれ、一人の男性が職員室へズカズカと入ってくる。
「あのアホは話が長いんや。入学式終わってもうたやんけ」
入ってくるなり男性は機嫌が悪そうだった。
着ている服は上下がスウェット。体格がいいというのもある。しかし強面のオールバックという顔立ち、さらにその強面の顔に傷跡のような線。それらが合わさり、強烈な威圧感となって見る人を萎縮させる。入学式兼始業式が行われている職員室で、一人だけ明らかに異様な存在だった。
「ああ、毛利先生。ずいぶん時間かかりましたね」
担任となった浜中先生の口から飛び出した信じられない言葉。どうやらヤクザにしか見えない強面のこの男性は教師のようだ。
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