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あの時、苦しむ彼を見てもあたしは助けを呼ぼうとしなかった。
放っておけばどうなるかわかっていて見殺しにした。
あれは人生で最も長い1分間だった。
このまま見捨てればこの人の財産はすべてあたしのものになる。
そんな醜い欲と、人を殺してしまう恐怖で心がいっぱいになった。
そのふたつの感情が心の中でせめぎ合い、そしてあたしは欲を取った。
罪の意識にさいなまれながらあたしはあの人の最期を見守った。
そんなあたしを驚いた顔で見て――、最期にあの人は笑った。
きれいな笑顔だった。
…ばかなひと。
あの人はこんなあたしを、最期まで愛してくれたのだ。
こんな、なにもない、心の奥底まで腐りきったあたしを。
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