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ノブレス・オブリージュ 或いは三者三様の宴
四方を峻厳な山峰に囲まれたこの国では五年に一度、国営の宝くじが主催される。
くじに複数の等級は無い。
国土を東西南北で四分割し、当選者は四人、各区域で一人ずつと厳密に定められている。
宝くじを購入することができるのは世帯主のみ。
希望者は町の役場へその旨を申請し、宝くじ実行委員から7桁の数字が刻まれた小さな木の札を二百円で購入する。不正・転売を防止するため、委員の立ち合いのもと、希望者の戸籍謄本には割り振られた7つの数字が記載される。
当選額は一律、一億円。
当たれば賞金と記念の花冠を、実行委員が聖誕生祭の前日に当選者の家まで届けに来る。
億万長者の栄光を手にした当選者の家の前には一月の間、この国の高原地帯にしか生息しない夜光蘭で作られた花冠を飾るのが慣例となっている。それは蘭特有の甘やかな香りを放ち、夜になると太陽の光りを蓄えた花弁が白く仄かに光る。
芳香と美しい光で当選者の家屋を包む花冠を、人々は幸福の女神の祝福に喩えて「女神の息吹」と呼んだ。
更に一年間、当選者の家には無償で警吏が護衛につくという破格の待遇がある。強盗や盗難といった犯罪から、当選者を守るためだ。
宝くじが解禁される初夏から当選発表の冬至までの約半年間、人々は億万長者の夢に焦がれる。
これはそんな宝くじをめぐる、四つの区域の中でもひときわ貧しく自然の厳しい北の区域で起きた一連の物語である。
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