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「私たちは隣町の救貧院から参りました。家主様はいらっしゃいますか?」
修道女は四人の学士を順に見渡した。学士たちも突然の訪問者たちにさっと目を通す。修道女を中心とした人だまりは年配から妙齢まで、様々な年齢層の女たちと、まだ幼い子どもばかりだった。
「家主は僕です。どういったご用件でしょうか?」
「寄付を募って、この辺りを回っています。恵まれない者たちに、どうか慈愛の手を」
顔の前で両手を組み、祈りの形で頭を下げた修道女に、背後の女たちも緩慢な動きで倣(なら)う。
「生憎、宝くじの賞金はほとんど大学に寄付してしまったんです」
「どんなに少額でも良いので、どうかお恵みいただけませんか?」
「申し訳ありませんが、あとはうちの蓄えしか残ってないので……」
「……どうしてですか?」
家主がやんわりと断った瞬間、人だまりの中からひときわ甲高くしわがれた声があがった。
「大学なんて、高い学費をとるんだからお金をたくさん持っているはずです。そんな所より、貧しい人や本当に困っている人を助けようと思わないんですか?」
人ごみの中から中年の女が一人、つかつかと門に近寄る。深い縦皺に埋もれた目が、家主をじっと見据えた。糾弾するような女の言葉に、家主も友人たちも眉をひそめる。
「どうしたんですか?」
台所で晩餐の準備をしていた家主の婚約者が、玄関先の騒ぎを聞きつけて顔を出す。
「大丈夫だよ。中で待っていていなさい」
婚約者はおろおろと訪問者たちと家主を見比べたが、少し迷ったのち踵を返した。
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