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「何をするッ!」
警吏がすかさず女を捕まえ、片腕を捻じり上げる。
「おやめなさい!!」
我に返った修道女も、慌てて女を制止した。門を囲む女子供たちは、虚ろな眼で女と警吏を眺めいた。
人だまりの中から、ぼろぼろに擦り切れた服を来た男児が、力ない足取りで女に歩み寄る。痩せた小さな体にはうっすら雪が積もり、棒のような手足が裾からはみ出していた。
「もういいです。放してあげてください」
困惑しながらも、家主が警吏をなだめる。警吏から解放された女は乱れた服を直すと、底光りする目で男を睨んだ。
「申し訳ありません」
「とにかく寄付は出来ません。お引き取りください」
頭を下げて詫びたシスターにきっぱりと告げ、家主は玄関の扉を閉める。
学士たちは部屋に戻ると、救貧院からの訪問者たちが引き上げるのを窓から確認し、酒宴を再開した。
「なんだあの女。少しおかしいんじゃないか」
学士の一人が失笑交じりに毒づく。
「旦那が大学に寄付したとか言ってたけど、没落した豪商か貴族だったのかもな。何にせよ、気の毒だ」
すると、シチューの入った鍋を食卓へ運んできた婚約者が口を挟んだ。
「あの人、前々回の宝くじ当選者の奥さんよ」
「え?」
学士たちの視線が、一斉に婚約者に集まる。
「前々回って……確か五年前、前回の当選者を殺したっていう」
「ええ。私、この町に引っ越す前、あのおばさんの家の近所に住んでいたの。すごく老け込んでいたから、一瞬、誰か分からなかったけど」
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