第1章

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「母さ…ヒック…ウェック…オレ…オレェ…事故って…ヤベェよ助けてよ…うぅ…一億円…ヴわあああ~んん!届けにぎてえええん!」 向かいで笑いを堪える親友のオッ君に中指を立てる。 人が必死こいて演技してる時に笑ってんじゃねえよ。 「え!ぎでぐれるの!ありがとううぅ!じゃあ午後三時にいいい!俺の代理人が受け取りにいぐからあああ!」 下を向いて肩を震わせて笑いを噛み殺していたオッ君が、ハっとした顔で頭を上げる。 目を丸くして口をパクパクするオッ君に、またもや俺は指を立てる。 今度は中指じゃなくて親指な。 電話を切り、五秒ぐらい見つめあった後ようやくオッ君は口を開く。 「イチ君…成功したの?」 オッ君の声が震えている。 「まだだ。金を無事受け取ってからだ。なあ、オッ君や。君はバイブかい?震えてばかり…」 「うまく行きすぎじゃねえ?絶対おれおれ詐欺ってバレてるよ!」 「待ち合わせ場所に行ったら警察が居ましたってか?」 「そうだよ!絶対そうだって!やめよう!おばさんに謝ろう!」 めんどくせえ。 「オッ君よ。それならそれで仕方ないじゃない。最初に俺らそう言いあったじゃない。」 「ーっ!」 オッ君は昔から秀才で、夢は医師である父の病院を継ぐ事だった。 そんなオッ君は受験に失敗して絶望の淵に立たされていたのだ。 駅のホームでボーっと線路を見つめるオッ君が、黄色い線の内側に片足を入れるのを見た瞬間、俺は走ってオッ君の腕を掴んだ。 ー俺だってロクな人生歩んでないぜ?なあ、オッ君よ。二人ででかい事しよーぜ!ー ーでかい…事…?ー ーおれおれ詐欺だよ。ババアから大金巻き上げんだよ!それで豪遊するんだ!ー ー警察に捕まるのやだよー ーそん時はそん時だろ!大体電車に飛び込もうとしている奴が何言ってんだよ!ー 五秒ぐらい見つめあって、プッと吹き出したオッ君は、スイッチが入った様に笑い出した。 やろうやろう!こんな世の中糞食らえだぜ! 「イチ君ごめん。やるよ!ちゃんとやる。」 そんな訳で心臓バクバクさせながなら待ち合わせ場所にオッ君を向かわせる。 キャリーバッグを受け取る現場を離れたところから見ている俺は緊張でションベンちびりそう。 キャリーバッグを転がしたオッ君が俺の元に来る。 「やったよ…イチ君」 「やったな…オッ君」
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