きらぼし

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 スマホからブログにそんな書き込みをしつつ梓が警察署に入ると、案内をしてくれる風にこちらを見ている女性がいたので、梓はその女性に自分の名を名乗り、そのまま、配属になる課のある場所に向かった。  その課は地下3階にあった。その階にふみこむなり、暗くじめじめした陰気な雰囲気がたちこめているのを感じとり、梓は思わず顔をしかめた。  案内をしてくれた女性が一礼して去っていくのを見送り、はれもの扱いが昇進はないわな、と思いながら、梓が"零課"と書かれたその扉をノックして入室すると、とたんに煙草の白い煙が触手をのばすようにわいてきて彼女の全身にからみつき、むっと鼻をつく臭いに体中を侵食された彼女は、たまらず鼻と口を手でおおった。少しでも換気しなければ死んでしまう、と、扉を開け放したまま梓が室内に入ると、煙草の煙で白く濁った室内の一角に、こちらを向いてソファーに腰掛ける人影があった。どうやら男性のようで、他に人はいないようだった。ますますやっかいばらいの気配がつよくなり、梓は、がくりと肩をおとしながら、部屋を見回した目を再び男の方へと向ける。  白髪まじりのくちゃくちゃの頭に丸めがね、真っ黒なスーツにこれまた真っ黒なネクタイという出で立ちで、新聞片手に煙草をふかしているその男は、梓の気配を感じると、ちらと一瞬視線を彼女に送ってから、前方の長椅子をみやった。そこに座れということか、と梓が緊張気味にその古ぼけた長椅子に腰掛けると、男は無言のまま新聞に目をやりながら、古い煙草を灰皿にすりつけて、胸ポケットから新しい煙草を抜きとって火をつけ、ふかしだした。梓が、いつ男の口から言葉がつむぎだされるのかと思って緊張に汗ばんだ両手を膝の上でぎゅっと握っていると、男は読んでいた新聞を前方のテーブルに放りなげ、深く息をつきながら、たばこを灰皿にすりつけた。さあきた、と梓が緊張の面持ちで男の顔をみやると、男はまた新しいたばこをとりだして火をつけ、ふかしだした。そして、座っているソファーの背もたれの裏に腕をまわすようにして、天井を見上げ、ほうけだした。 「あの」  梓がたまらず言葉を発する。  しかし、男は煙草をふかす以外身じろぎせずほうけたままだ。
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