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「あの、新しくこの零課に配属になった幹本梓です。よろしくご指導願います!」
そう言って梓は大袈裟にがばと一礼した。
しかし梓が顔をあげても、男はまだほうけて天井をみあげたままだ。
新人だからってなめすぎじゃないの、と思いながら梓が頬をふくらませて男を睨めつけるようにすると、男はおもむろに立ち上がり、梓には見向きもせずに部屋の出入り口の方へ歩き出した。
「あの、新しく零課に配属になった、幹本梓です!」
苛立ちを隠さず梓が叫ぶようにそう言うと、男はわずかに梓の方へ顔を向けるようにして、興味があるならついてこい、とぶっきらぼうに言って部屋を出ていった。
何なのよ、と毒づきながらも、梓はその後を追う。
「あの、私、全然零課のこと知らないんですけど。あなたのお名前は?私は何をすればいいんですか?教えてください」
しかし、男は、もくもくと歩を進めるばかりで、一言も発しない。
「あの、いいかげんにしてくれますか」
梓がそう言って男の前に進み出て睨みをきかせると、男は、彼女に見向きもせず、つかつかとその脇を素通りして近くのコンビニに入店した。梓はあきれ顔をしながらも、それに続いてコンビニに入る。
「あの、何なんですか、ホントに」
梓が怒りの声をあげると、男は、自分の口に人差し指をかざしながら、梓の口にも同じようにした。そして棚の影に隠れるようジェスチャーした男は、自身も身を隠しながら、鋭い眼光で客の一人を観察しはじめた。
一人の女子高生だ。明らかに挙動不審で、梓の頭でも、やるな、とぴんときた。
案の定、女子高生は、化粧品を十数点、紺色のサブバックになだれこませ、そのままそれを抱え込むようにして早足で店を出た。
男と梓は、すかさずその後を追う。しかし、いつまでたっても男は女子高生を捕まえようとしない。時々あたりを見回すようにするその少女から身を隠しながら、男と梓はひたすら少女を追う。少女は、コンビニから十分ほど歩いたところにあるファミレスに入っていった。男と梓もそれを追って入店する。
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