きらぼし

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 少女は、同級生らしい派手な出で立ちの少女たちのグループが座る席に合流し、彼女らと一緒にテーブルを隠すようにして身をのりだし、万引きした商品をバックからとりだしてテーブル上に出したようだった。  今が絶好のチャンス、と梓が動かんとすると、それを男が止めた。  すると突然、少女たちが悲鳴をあげはじめた。そして、その席には、何事かわからず呆然とする、万引き少女だけがのこった。  その段なって、男は万引き少女に接触した。男は警察手帳をみせながら、テーブルの上にばらまかれた化粧品をみやって言った。 「君、これ、万引きしたね。その制服、星華高校の生徒だね。名前は?」  男の問いに、少女は青ざめ、引きつった顔をしたあと、顔をうつむけて、松山春菜です、と震える小さな声でこたえた。 「とりあえず万引きした店に商品を返しにいこうか」  男が言うと、少女は、その言葉に素直に従った。 男は、少女が万引きしたコンビニの前にくると、梓に外に残るようにジェスチャーし、少女と共に入店した。そして、店員と何やら話をして少女に謝罪させ、品物を店員に返却し、一礼したあと、梓のまつ店外へ出た。そして少女に、ついて来なさい、と言って警察署の方へ歩きだした。少女はより青ざめたが、男は気にせずつかつかと自分のペースで歩き、梓は少女の手を引いてそのあとに続いた。  そして三人は例の空気の劣悪な部屋に入り、男の指示で、少女と梓は古ぼけた長椅子に座る。 「すみません、すみません、すみません。許して下さい、許して下さい、許して下さい」  少女はそうくりかえして泣きじゃくった。  その姿を冷たくみやりながら、男は口を開く。 「勘違いするな。君を罰するためにここへ連れてきたわけじゃない。話をききたいだけだ」  男はそう言ってたばこをふかしだす。 「パシリをやらされはじめたのは、いつ頃だ?」  梓が状況を読めずにいると、男は、一瞬いまいましげに梓に視線を送って、梓に対して説明するように語りだした。
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