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「あのな、この世界はうまくできててな、人ごときが想像できることはな、現実にもありうるっつうことなんだ。それに、火のないところに煙はたたぬっていうだろう。幽霊という存在は、科学的にも説明可能だ。馬鹿にもわかるように簡単に言うと、脳は電気信号で体に命令を下してるだろ。そういう電気信号はな、死っていう大きなことが起こると、それが突然で衝撃的であるほど、強いものが発生するんだ。それは、空気とか物質に記録されて、それが、幽霊や怪奇現象を生むんだ」
「説明になってないわ」
「だから、馬鹿用の説明だっつったろう。詳しく説明してもどうせキレるだろうから、言わないが」
「私、馬鹿じゃないし!万人に理解できないことは、"無い"ってことなんじゃないんですか?」
梓が応酬する。顔を真っ赤にしていきまくその姿に、男は一つ大きく息をつくようにして言葉を続けた。
「殺気で振り返るとか、あるだろ。脳が放つ電気信号、念ともよばれるそれは、形はなくとも確かにあるんだよ。それが世界に及ぼす影響は、あんたが思っているより、大きいんだ。もっと柔軟な頭にならなけりゃ、生きてくのに大変だぞ。まあ、あんたのような脳天気なやつには、気苦労なんかもないんだろうし、そのまま終わるのもいいんじゃないか」
そう言って男は、ふ、と皮肉に笑った。そして、いきりたつ梓から視線をそらすと、少女をみつめて言った。
「心がおちついて、話す気になったら、ここに連絡してくれ」
そう言うと、男は黒地に白い文字で打たれた名刺を少女に手渡した。
梓が覗きこむと、杉浦京太郎(すぎうらきょうたろう)という名が記されていた。
少女は、名刺を受け取って一礼すると、男―杉浦が内線で呼び付けた女性にささえられるようにして、よろよろと部屋を出ていった。
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