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「ちょっと。訳わからないんですけど。説明してください」
「仕方ないな。壁子、頼む」
杉浦がそう言って近くの壁をノックするようにたたくと、その場所に、目に見えて紅い染みが現れはじめた。梓が驚いて目を丸くしていると、その染みは次第に文字の形をとっていった。
―初めまして、壁子です。
突然壁に現れた文字に、梓が驚愕していると、杉浦が説明を加える。
「壁子は、生前、壁に頭を強く打ちつけ、その打ち所が悪かったために若くして亡くなった女性だ。名前などくわしいことは本人も覚えていないらしいんだが、よほどの死に方をしたために強い念が世界に刻まれ、こうして壁や天井、床などに文字を浮かべて生者と語らったりできる特殊な存在になったんだ。他にも、世界中の物質という物質に目や耳を持っているかのように情報を収集する能力がある。その能力は、不安定であまり感度はよくないが、彼女の不安をあおる情報ばかり入ってくるものだから、俺が協力して、その心配を解決してやったりしてるんだ。まあ、俺の仕事に彼女が協力させられるのがほとんどだけどな。だが、今回の仕事は、壁子に依頼された仕事だ。彼女の心配は、けっこう重大な事件と関係していたりするから、あんたも覚悟しておけよ」
「はあ…」
梓は状況をのみこめないまま、そう生返事をした。
そんな梓には気にも止めず、杉浦はテーブルの上の新聞を手にとると、じっと真剣な眼差しでよみふけりはじめた。
またか、と梓がためいきをつきたいのを我慢して、杉浦に向かって言った。
「そんな、新聞なんて読んで、捜査に役立つんですか」
「チョウバツボウ…」
杉浦が突然つぶやくようにそう言う。
「はあ?何ですか、いきなり」
梓がそう言って眉間にしわをよせるようにすると、壁子がテーブルの上にメッセージをうかびあがらせた。
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