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──"警報、警報!反逆者の逃走を確認!全帝国軍兵に告ぐ!直ちに各隊を率いてクレイグ・ロングハーストを拘束せよ!"
帝国軍基地内に騒々しい警報音(サイレン)が鳴り響く。鼓膜を揺らす甲高い警報音の中、少年は回廊を疾走する。
深い藍色の髪を靡かせ、少年の表情には僅かな焦りが滲んでいた。流れるように長い前髪の間から澄んだ紺碧色(サファイア)の双眸を覗かせる。切れ長に整った目鼻立ちは高く、実年齢よりも大人びた佇まいだ。
少年の名はクレイグ・ロングハースト。帝国軍基地での階級は特務曹長だ。帝国軍兵の証である紋章を胸元に、黒い戦闘制服を着用している。
(…もう感づかれたか)
クレイグは帝国軍基地内から逃走を図ろうとしていた。その左手には、武器庫に厳重に保管されていた帝国の国宝である黒鞘に収められた“妖牙刀(ようがとう)”を手にしている。
数百年前に戦乱の世を鎮めた世界の英雄と詠われた刀剣使い──アルフレッド・フェリクスが使用していた刀剣の一つがこの妖牙刀であり、後世に渡り英雄の遺産として現在まで語り継がれてきた代物だ。
アルフレッド・フェリクスの英雄の遺産の一つが帝国の手に渡り、帝国軍の武器庫に厳重に保管されていたのである。
クレイグは先程から全速力で疾走しているが、幼い頃から帝国軍に身を置いてきたせいか、体力の限界どころか息の乱れも感じさせなかった。
頭の片隅で基地内の脱出経路の場所を模索していく。再び、殺風景な廊下に機械的な声が反響する。
──“現在、我が帝国に置ける国宝、妖牙刀を盗み出し逃走中の模様。よって、各隊を率いてクレイグ・ロングハースト抹殺の許可を与える”
(奴ら、この俺も殺す気か…非道者どもが)
皇帝が新たに創設した、巨大軍事力を目的とした“大帝国建設計画”に反対していたクレイグの父は、皇帝の反逆者として帝国軍に殺されてしまった。
何故なら父は、たくさんの民間人を巻き込むこの計画に強く抗議をしていたからだ。
父が殺されてしまったのも、帝国に欺くものは容赦しないという見せしめの為のものだろう。帝国軍において中佐として高い地位にいた父の死は、それ程帝国軍に影響を与えるものであった。
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