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「嘘だ!そんなの。やだやだ。モフ子を出荷するだなんて!」
「翔太、仕方ないじゃない。うちはこれで生計を立ててるのよ。モフ子はね、うちの子じゃないの。ちゃんとオーナーさんが居るって、前から行ってたでしょ?」
母親は翔太を宥めた。
翔太の家は畜産家で、牛や豚、羊まで幅広く飼育している。
モフ子は、ある会社の重役がオーナーの子羊だ。
昨日突然、モフ子を〇〇ホテルに出荷するようにとの申し出があったのだ。新鮮な子羊を食べたいとの強い希望だった。
早朝黙って、モフ子を出荷しようとしたところを翔太に見られたのだ。
両親は一生懸命、翔太に説明した。
「わかった。仕方ないよ。」
翔太はうなだれた。
翔太はモフ子を人一倍可愛がり世話をしてきたので、両親も忍びない。
可哀想だが、これは運命だ。
モフ子の出荷の用意をするために、トラックを用意している隙に、翔太は羊小屋の扉を開けた。
「行くぞ、モフ子。」
勢いよく飛び出したモフ子と共に、翔太は走り出した。
「今日はね、君に特別の料理を食べさせてあげるからね。」
隆が脂ぎった顔で満面の笑みをたたえた。
「へえ、なんですかぁ?特別の料理って。」
「僕は子羊のオーナーをやっててね。君のために特別に今日、振舞おうと思ってね。」
「えー、ホントですかあ?部長?。綾香、楽しみぃ?。」
鼻にかかった甘ったるい声が、隆の耳をくすぐる。
「お客様、申し訳ありません。」
その時、青ざめたウエイターが近づいてきた。
そして、事情を説明した。
「なにぃ?子羊が逃げただとぉ?そんな言い訳が通ると思ってんのか?他の料理を出すだと?ふざけんな!」
隆は激高した。折角今、綾香に見栄を張ったばかりなのに、顔に泥を塗られた。
「責任者を呼べ!責任者を!」
周りの目を気にせず、隆は怒鳴り散らした。
「あなた?」
一人の中年女性が近づいてきた。隆は青ざめた。
それは、紛れもない、自分の妻、美鈴。
向かいの席を確認すると、そこはもぬけの殻。
綾香はいち早く逃げて居なくなっていたのだ。
その時、美鈴の携帯が密かにメールの着信を告げていた。
見知らぬ若い女と隆が裸で抱き合っている写真が添付されているのを美鈴はまだ知らない。
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