第1章

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赤羽揚羽(アカバネ、アゲハ)には、夢がある。もしくは、欲しいもの。たぶん、他人が聞いたらバカみたいと笑われてしまうことだけれど、彼女にとっては大切な夢。 『揚羽、揚羽、お前は、私の宝だ。私の夢を叶えるための、その力をもっと、使えるようにならなくちゃいけない』 『…………うん』 最初のうちは、彼の言うことを信じていた。たぶん、これが正しいことだと信じていたから、彼が言うことは正しくて、自分に宿る、この蝶の力は彼の願いを叶えるためにあるのだ。 『さぁ。このナイフで斬るんだ、揚羽の血を私にくれるかな?』 彼の手が、揚羽の太ももを握り、スーッと切れ目が入り、真っ赤な蝶が溢れ出し、 「…………っ!?」 赤羽揚羽は、勢いよく跳ね起きた。暑苦しかったのかタオルケットが遠くに吹っ飛んでいた。寝相の悪さはなかなか直らない。 「あぅ、トイレ、行きたい」 怖い夢をみたせいか、クルクルとお腹が痛いが、まだ、夜だ。薄暗い。居候させている身であまり文句は言えないけれど、この屋敷は夜になると、お化け屋敷みたいだ。揚羽一人で、トイレに行くには勇気が足りないかといって、一人でモジモジしているわけにはいかない。ダムが決壊してしまう。 「山都お兄ちゃん、今日は居るよね」 コクリと頷き、金髪少年の居る部屋にソローリと向かう。薄暗い廊下も、山都に会えると思えば、なんとか頑張れた。そーっと扉を開き、山都の部屋に入る。山都の部屋は物が少ない。必要な物、以外は置いていないくて、とても寂しい部屋だ。 「なんだろ? あれ、鋏?」 揚羽は、部屋を見渡しながら、机の上に置かれた鋏が気にかかった。暗がりでよく見えないが、触ってみたい気分にさせられる。ドキドキと心臓が高鳴ったが、クルクルとお腹が痛む。 「そんなことより、山都お兄ちゃん」 鋏のことも気にかかったが、今は山都だ。部屋の中央に布団をひいて、山都はスースーと規則正しく、寝息をたてている。姿勢がいい。揚羽はそっと山都の寝顔を覗き込もうとしたが、 「ン? どうした。揚羽」 その前に起きてしまう。寝顔が見れなかったのは残念だけれど、お腹のほうも限界だ。 「山都お兄ちゃん、トイレ、ついて来て」 「ああ、わかった」 そう言うと、山都は起き上がり、ンーッと背伸びした。山都と連れ添い、トイレに向かう。
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