第1章

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しばらくして桐谷さんは一枚の写真を取り出した。 思った通り、そこに写っていたのは若い男性。海をバッグにカメラに向けて、屈託のない笑みを浮かべている。 一見浮気するような人には見えないのだが……。 「この人を、殺してほしいんですの」 なるほど、殺してほしいのか……って! 「ちょ、桐谷さん?!」 「分かりました」 「って倉田さん?!」 分かりました? ちょ、普通の浮気調査じゃないんだよ? うち、一応探偵事務所なんですが…… 「ちょっと待ってくださいよ、桐谷さん、倉田さん!!」 二人は突然声を張り上げたわたしを「何か?」という表情で見返す。 「そんな依頼、受けられるわけありません!!」 バン!と机をたたくと、倉田さんのコーヒーが倒れた。 「失敬」と何事もなかったかのようにこぼれたコーヒーを拭いている。 それを見ていると、驚きを超えて、イライラが湧き出てきた。 「まぁまぁ夏樹ちゃん。話だけでも聞いてみよう」 あぁ、彼女も、この人もどうかしてるんだ。 抵抗するだけ無駄。 話だけ聞いて、断ればいいんだ。 「……」 わたしはおとなしく、ソファーに座りなおした。 「それで、桐谷さん。どうしてその男を殺したいのですか?」 「えぇ、実は……」 彼女はゆっくりと、探偵事務所に依頼してきた経緯について話し始めた…
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