第1章

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――――――――桐谷華さんはいわば生粋のお嬢様。 生まれは白金。育ちも白金。 大学に入っても、一人暮らしなど許されず、行き来も付き人の送迎付き。 大学のサークルで出会った彼とは大学卒業後すぐ結婚。 なんでも、彼は一流企業への就職を決めたらしく、生活も将来も安泰していたらしい。 幸せな生活が彼女を待っているはずだったのだが……。 「……彼は、その五年後に会社を解雇されていたんです」 「されていた、とは?」 「つい最近になるまでの半年間、わたしは彼が解雇されたことに気付かなかったんですの」 わたしは驚いて言葉も失った。 「夜も遅く帰ってくるし、土曜祝日も出勤も増えたので、おかしいとは思っていたんですが……。 先日、平日にも関わらず、若い女性と腕を組んで歩いている姿を見て確信しましたわ」 桐谷さんはバッグから白いハンカチを取り出し、そっと目を覆った。 「失礼しますが、現在の収入源は?」 「わたしの貯金ですわ。幸い今は夫が出ていき、実家に戻っていますのでどうにでもなります」 「なるほど」と倉田さんはうなづいた。 「殺してください、あの男を!!」 桐谷さんは目を真っ赤にして大声を張り上げる。 「引き受けてくださいますか?この依頼」 「もちろんですとも!!」 わたしは思わず叫んでしまった。 一度叫ぶと、心にしまっておいたイライラがすべて飛び出してくる。 「桐谷さんの気持ちをもてあそんで、だまして、他の女と浮気だなんて!そんな最低な男、死んで当然です!」 倉田さんも桐谷さんも呆気にとられた表情でわたしを見上げている。 そのうち、桐谷さんは「えぇ、えぇ」と感激の涙を流し始めた。 「依頼料は、こちらです」 そういって桐谷さんは例のジュラルミンケースの中身をパカッと開ける。 そこにはなんと…… 「総額で一億円です」 「一億っ!?」 一万円札の束が1、2、3、4……。 とにかくジュラルミンケースいっぱいに詰まっていた。 「分かりました。その依頼、お引き受けいたします」 倉田さんは一億円を目の前にしても、眉一つ動かさない。 いつものように冷静な態度で、依頼書をファイルから取り出す。 「こちらに、住所とお名前とお電話番号を……」
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