第1章

6/12

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
*-*-*-*-*- わたしの反対意見はむなしくかき消された。 数の暴力だ……。 正義はどこへ消えたんだか……。 「ちょっと、倉田さん本気ですか!?」 依頼人の桐谷さんが帰ったあと、わたしは倉田さんに詰め寄った。 いくらうちの経営が困難だからって、お金に目がくらむなんて……。 「夏樹ちゃん、急いで彼女を尾行するんだ」 「は?」 倉田さんの表情は真剣そのものだった。 ついさっきまで、にこやかだったのが嘘みたいに、険しい顔。 「すべて嘘だよ。よくもあんな作り話ができたものだ」 「え」 「僕と彼女、どちらが信用できると思う?」 わたしは倉田さんの目をじっと見る。 倉田さんは他人の嘘を百パーで見抜ける。 どんな小さな嘘でも、倉田さんにかかれば一目でばれる。 「わかりました…」 わたしはしぶしぶ立ち上がった。 高く結んだ髪をおろし、麦藁帽を被る。 これだけでも変装には十分だ。 「行ってきますね」 わたしはバッグに物を詰め込み、急いで事務所を飛び出した……。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加