第1章

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よく考えてみれば、おかしなところは何度もあった。 わざわざ白金から離れたこの事務所に来た点。 重いのに一億円を現金で持ってきた点。 なんでもっと早く気付かなかったんだろう……。 階段を駆け下りて、辺りを見渡す。 彼女の姿はどこにもなかった。 「くっ……」 右か、左か迷っていると、携帯から着信音が響いた。 『もしもし、夏樹ちゃん?』 「倉田さん……」 『桐谷は右に曲がったよ。駅の方に向かったはずだ』 「はい!」 スニーカーを履いているから、ダッシュなんて朝飯前。 そういえば、お昼まだ食べてないなって、思いながら、駅へとかけていく。 ウソつくなんて許さない……。 尾行なんかじゃなくて、捕まえて一発殴ってやりたいほどだ。
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