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焦っちゃダメだ。
まだそう遠くにはいっていないはず……。
「いた……っ!」
見えたのは、桐谷が車に乗り込もうとするところだった。
まずい、車に乗られたら……。
わたしは急いでタクシーを探した。
黒のシーマ。『品川 わ XXXX』
しっかりとナンバーを焼き付ける。
運転席にいるのは、男だというのはわかった。
偶然通りかかったタクシーを捕まえ、「前の車を追って」と吐き捨てた。
「え、お客さん。それはお断りさせていただいてるんですが……」
……。
また来た。いつものだ。
わたしはいつもの通り「二倍払うわ」というと、タクシーはゆっくり走り始めた。
「ったく……」
必要経費とはいえ、倉田さんには申し訳ない。
前のシーマもゆっくりと加速をし始める。
とりあえず、倉田さんに報告を……。
「もしもし、倉田さん?」
『夏樹ちゃん、今どこだい?』
「タクシーです。今、車に乗った桐谷を追っています」
『車種とナンバーは?』
「黒のシーマ。品川の「わ」XXXXです」
遠くで、倉田さんが繰り返している声がした。
『ありがとう。そのまま尾行を続けてくれ』
「はい」
タクシーはそのままシーマを追った。
桐谷は大きな通りをひたすらまっすぐ進む。
大きな通りだから、怪しまれることはないと思うけど……。
メーターは上がっていくし、道はだんだん細くなっていった。
嫌な予感がしてくる……。
その「嫌な予感」は的中した。
桐谷たちは、さびれた屋敷の敷地へと入っていったのだ。
「……」
「あの、お客さん。これ以上は私有地なので、追跡をすることは……」
分かってる。
わたしはきっちり二倍のお金を払い、タクシーから降りた。
『捕まえて殴ろうなんて……』
倉田さんの声がふとよみがえる。
大丈夫、尾行をするだけ。見つからないようにするのが第一だ。
わたしはこっそり敷地内へと入った。
近くにあった木に身を隠し、桐谷の行方を探す。
黒のシーマは屋敷の前で止まっていた。
助手席からは桐谷。
そして、運転席から顔を見せたのは……。
「……っ!!」
なんと、桐谷が殺してほしいといっている男だった……。
どういうことなんだ…。ぐるぐるといろんな考えが交錯し、混乱してきた。
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