第1章

9/12
前へ
/12ページ
次へ
焦っちゃダメだ。 まだそう遠くにはいっていないはず……。 「いた……っ!」 見えたのは、桐谷が車に乗り込もうとするところだった。 まずい、車に乗られたら……。 わたしは急いでタクシーを探した。 黒のシーマ。『品川 わ XXXX』 しっかりとナンバーを焼き付ける。 運転席にいるのは、男だというのはわかった。 偶然通りかかったタクシーを捕まえ、「前の車を追って」と吐き捨てた。 「え、お客さん。それはお断りさせていただいてるんですが……」 ……。 また来た。いつものだ。 わたしはいつもの通り「二倍払うわ」というと、タクシーはゆっくり走り始めた。 「ったく……」 必要経費とはいえ、倉田さんには申し訳ない。 前のシーマもゆっくりと加速をし始める。 とりあえず、倉田さんに報告を……。 「もしもし、倉田さん?」 『夏樹ちゃん、今どこだい?』 「タクシーです。今、車に乗った桐谷を追っています」 『車種とナンバーは?』 「黒のシーマ。品川の「わ」XXXXです」 遠くで、倉田さんが繰り返している声がした。 『ありがとう。そのまま尾行を続けてくれ』 「はい」 タクシーはそのままシーマを追った。 桐谷は大きな通りをひたすらまっすぐ進む。 大きな通りだから、怪しまれることはないと思うけど……。 メーターは上がっていくし、道はだんだん細くなっていった。 嫌な予感がしてくる……。 その「嫌な予感」は的中した。 桐谷たちは、さびれた屋敷の敷地へと入っていったのだ。 「……」 「あの、お客さん。これ以上は私有地なので、追跡をすることは……」 分かってる。 わたしはきっちり二倍のお金を払い、タクシーから降りた。 『捕まえて殴ろうなんて……』 倉田さんの声がふとよみがえる。 大丈夫、尾行をするだけ。見つからないようにするのが第一だ。 わたしはこっそり敷地内へと入った。 近くにあった木に身を隠し、桐谷の行方を探す。 黒のシーマは屋敷の前で止まっていた。 助手席からは桐谷。 そして、運転席から顔を見せたのは……。 「……っ!!」 なんと、桐谷が殺してほしいといっている男だった……。 どういうことなんだ…。ぐるぐるといろんな考えが交錯し、混乱してきた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加