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要するに僕は天才で、一度聞けば覚えたし一度やれば手懐けた。加えて発想力もあったもんだから二十歳になる頃には亡くなった人を蘇生することも理論上では可能なまでに成長していた。
そんな折、母が死んだ。僕は悲しむ前にその理論を実証するために大学の研究室を貸し切った。完璧主義だった僕はどれだけ大変な作業であろうと他の人の手は付けたくなかったし、何より僕の母なのだから他の人に蘇生を手伝ってもらう筋合いもなかった。
頭に広がる論文を三次元化するのはとても容易で、あとは母の遺伝子さえあれば蘇生が完了する。
眠気に負けそうな体を無理矢理起こして研究室から出た時、どこから聞きつけたのか僕の幼馴染が僕の肩を掴んだ。
「お前死んだ人を生き返らそうとしてんだって?」
あぁそうだ。僕はそれだけ言って家へ向かった。
「あった」
僕が今持っているのは母の髪の毛。几帳面だった母は前髪をいつも自分で整えていた。だからごみ箱に髪の毛が入っていても不思議じゃない。母子家庭でよかった。父が居たら僕が居ない間にごみ箱の中身は変わっていただろうし。まぁあんなクソみたいな男、生きててもそんなことするはずないのだけれど。
僕は研究室る。すると研究室に幼馴染が。
「お前、それ本気ならやめろよ」
幼馴染の制止は人様に蟻が盾突くようなもので、僕は幼馴染が装置を理解する前に準備を終わらせ電源を入れた。瞬く間に僕が準備を追えたのに気付くと幼馴染は声を荒らげながら装置を止めようとした。
無駄だよ一度電源を入れればもう止まらない。僕の言葉に幼馴染は耳を傾けずただ装置が低い音を奏でるだけだった。
やがて音が止み、僕は装置の隣に置いてある筐体を開けた。するとそこには整然と大差ない母の姿。
「ほ、本当に、生き返ったのか」
幼馴染はただただ驚いていて、僕はというと実験成功の喜びと母と再び会えたことの喜びで涙が止まらなかった。
あの地獄に行くべきような父が死んだ時に感じた喜びとは違う、清々しい喜び。あぁ、そうだ。まだ死ぬべきじゃないんだよ、母さんは。
母さんがゆっくりと、口を開く。
「なんてことをしてくれたの。地獄であの人にやっと会えたのに」
余談だが母は昔、幼馴染があの生きる価値もない父を殺したのを目撃していたらしい。
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