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僕は怪物だから人間の言語とは似ても似つかぬ言葉を使うのだけど、それがかえって好印象だったらしく僕は今人の家に匿われている。
彼女は人間という存在に疲れていた。人間とは違いどんな言語でも理解できる僕は彼女の言うことがすべて理解できた。まぁ彼女からすれば言葉なんて理解されるはずがないから好都合、とか思われてるんだろうけど。
僕は聞けば聞くほど怒りが湧いてきた。というのも、彼女を取り巻く環境があまりにも劣悪すぎる。僕が人間だったら相手を殺しててもおかしくないほどだ。
そんな彼女の休暇に、偶然僕を発見したらしい。捕殺隊に追われていた僕としても好都合だった。先ほど捕殺隊の一人がここを訪ねてきたが、上手く言い逃れて、少なくとも今日は安静に過ごせそうなのだ。
だから今日の夜、僕はこの怒りをどこにぶつければいいのかわからない。いつもならば他の種族とぶつけ合えばいいものの、ここ周辺には人間しかいないしそもそも人間は脆すぎる。すぐに死ぬ。それに加えてここらで人間を殺そうものなら彼女に真っ先に疑いが向くこと必至だ。冷静に考えた末、寝た。
次の日の朝僕は彼女が起きる前に家を出た。流石に二日も僕を匿えるほど彼女も余裕はないだろうし。出来るだけ静かにドアを開けたら、目の前に彼女が居た。
「思いの外頭いいのね。まさか私に気を遣うとは。でもいいのよ~気なんて遣わなくて」
やんわりと押し返され、やんわりと室内へ戻る。別に気を遣ったわけでは……。
その日も彼女の愚痴を聞き怒りを蓄えながら寝た。明日こそは。明日こそは。
と思いながら五日が経った。何故か帰らせてくれない。そろそろ捕殺隊に疑われてもおかしくないだろうに。つい昨日捕殺隊の一人に家へ踏み込まれそうになったというのに。
彼女は帰ろうとする僕を両手で押し返す。室内へ戻る。何が、目的なのだろう。
ここでふと不思議に思う。彼女はもう五日も休んでいる。僕だって少しは人間社会について知っている。立派な人間の大人が五日も休むなんてそうそうない。
それを察してか、それともただの偶然か。諦めたように彼女は言った。
「あんたは知ったこっちゃないだろうけどさ、私もうあんたを匿うしか生きてく道がないの。怪物と生活するっていう話題作りをして金貰うしかないのよ私は」
僕は次の日とある会社の社員を皆殺しにして捕殺隊に殺されることになる。
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