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青白いと思うほど白かった肌が、日に焼け、健康的になっていた。それでも普通の人より、ここにいる誰よりも白い七尾の横顔。
森谷はその姿を確認すると、すぐ目をそらした。自分の足元に視線を落とし、その場に立ちつくした。
「わ、それどーした」
大西が急に大きな声を出したので、森谷は反射的に顔を上げる。
「うっかりして」
七尾の右の細いスネにざっくりと深い傷口があり、血が流れていた。
「転んだ? シヴァか。あいつ、急に暴れるだろ。ごめんな躾けてなくて」
「やー、ちょっと甘く見てた。シヴァのパワー」
シヴァは、ヤンミさんのところに行っていたかと思うと、ちっとも悪びれた様子もなく、また戻ってきて、七尾の膝に前足を乗せる。七尾はシヴァにヘッドロックをかける。顔をもんで、犬の口を笑っているみたいに伸ばし、もみくちゃにした。
「立てるか?」
「すみませんねえ、会ってそうそう」
大西に助け起こされた七尾は、片足を引きながら歩く。
「ちょー、これすげえ腫れてきてない? どんなこけ方したの。あ、こっちも、あれ、これは治りかけだな。おま、なんや、傷だらけやん!」
「あはは」
ヤンミさんが、シヴァのリードを捕まえた。マキシ丈のスカートすそがゆらゆらと海につかって水面でゆれているが、気にしている様子はなかった。
七尾を支える大西が、思い出したように言う。
「あ、そうだ、森谷くん、船で一緒だったから連れてきた」
七尾が森谷の方に顔を向ける。目が合った。瞬間、消えたいと思った。
「……ごめん」
情けない、声が出た。
「何それ、何の話?」
ゆったりと言った七尾のその微笑みには、何の屈託も迷いもなかった。
ふわりと甘く、あやうく勘違いしそうな優しさにあふれていた。
……この笑い方は、完全な拒絶だ。
罵倒されたり、蹴っ飛ばされたり、無視された方が全然マシだった。
森谷は絶望的な気持ちになった。
それから大西が大騒ぎで、七尾を島の病院に連れて行き、森谷とヤンミさんは先に帰された。
大西の家は、木造の平屋で、二十~三十代の男女が十人ほどいた。大西のスタッフやコーディネーター、そしてボランティアの学生たちだった。
着いてすぐに昼食の準備が始まり、森谷も手伝う流れになった。
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