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……なんてことだ。
「うれいをおびている」
久しぶりに、その言葉が脳に直撃し、喉が詰まる。
自分より十も年上で、しかも男、それなのに、そんなゆらいだ目で見られると、守りたい、守らなければという衝動にかられる。
「ラッキー」
そんな森谷の想いをよそに、美貌の主である柿塚七尾は、ニッと笑った。同時に先ほどの儚いような瞳の陰りは跡形もなく消え去り、それは、森谷の目の錯覚だったかと疑いたくなる。
森谷は、花をぶつけられた衝撃でずれてしまった黒いフレームの眼鏡を直した。
「お前、いいとこ通りかかったな。すみませーん、それも持っていきまーす」
森谷は七尾が声をかけた先を見て、やっているのかいないのかわからない、間口の狭い花屋があることに気づく。
「ほんとごめんなさいねえ。配達できなくて。台車使う? 重いでしょう」
「いやいや、若いの捕まえたんで」
「芍薬、もう開ききっているから、あまり長持ちしないと思うけど」
「今日だけ使えればいいんで。安くしていただきましたし」
七尾はエプロン姿の年配の女性から、もう一抱えの芍薬の花束を受け取った。
そして何も言わないでスタスタと先をゆく。チャリチャリと、ポケットに直接入れてあるだろう小銭と鍵が、音をたてている。
髪が最後に見た時よりも茶色くて、若干くせがついているのは、きっとミズタで長時間爆睡したためだ。カット以上のひと手間がかかっている時は、たいがいそうだから。
無意識に七尾の服装をチェックする。クタッとした麻のシャツに、ゆるい感じのパンツを裾を折ってくるぶし丈ではいており、足元は見覚えのある黒のビーサンだった。
そこらの人間が同じ格好をしていたら、パジャマですか? とつっこみをいれたくなるような服装だ。
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