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「ようやく、時間が動き出したみたいだね。」
乃蒼は目を閉じた。
Jadeが亡くなったとき、翠の時間は止まってしまった。
父の死を受け入れたくないと、翠の行動が物語っていた。
最後に会ったのはいつだっただろうか。
Jadeが亡くなって1週間目のことではなかっただろうか。
翠は父との約束の場所に立っていた。
毎年誕生日になると迎えに来たあの場所に。
その時の翠はなぜだか覚悟したような顔をしていた。
今思えば、あれは翠が日本に行くことを決めた瞬間だったのかもしれない。
乃蒼はその傍らにいたが、翠に声をかけることはなかった。
その日は、いつも通りまたねといって別れた。
その日の帰り際だけ、翠がありがとうと言ったが乃蒼はその時隣にいたことに対してだと思った。
そして次の日、翠との連絡が取れなくなった。
あのありがとうは翠なりのサヨナラだったのだとその時気付いた。
すべてを捨てて、時間が止まった翠だけが日本に渡った。
久しぶりに会ったときも、翠の時間が止まったままだった。
しかし、青海と接していくうちに少しづつ進み始めていったのが乃蒼には分かった。
ようやく動き出したんだ、これでいい。
「約束は果たしましたよ、Jadeさん。」
乃蒼は目を開け、空を仰ぎ見ながら言った。
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