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「いや、差し上げるって。100円でいいんだけど」
「いえ!受け取ってください!!」
少女の眼が、あまりにも真剣だった。
そして、
(この眼にも、見覚えが…)
私は仕方なく、左手で受け取った。
が!!
引力に引っ張られるような感覚に襲われた!
(なに!なんだこれ!)
このスーツケースは、異常に重かった。
少女は軽々と持ち上げたので、重いものではない、と思ってしまっていた。
(10キロ、もう少しあるかな?)
仕事柄、重さに対しては、身体で覚えている。
運送業の職についているからだ。
そして、少女は消えていた。
辺りを見渡したが、いる気配はなかった。
100円で、スーツケースをもらってしまった。
普通なら、気味が悪いとか思うんだろうけど、あの少女に邪悪なものは全く感じられなかった。
純真無垢、ということばが当てはまる、そういったイメージだ。
今、中をあけて見てみようかと思ったが、万が一、とんでもないものだったら、騒ぎになってしまうかもしれない。
(持って帰ってから開けてみるか)
かなり重いけど、これくらいなら、なんでもないことだった。
家に帰るまでに、空いているもうひとつの手に持つものがある。
私の愛犬のリードだ。
この公園は、ペット同伴厳禁なので、仕方なくリードを公園の柵につないでいる。
愛犬家も多く、数頭の犬が繋がれている。
(犬の見本市みたいだな)
できれば一緒に、散歩をしたいのだが、私もリフレッシュをしたいのだ。
「ごめんな、待たせたね。ナタリー」
ミニチュアダックスフンドのレッドといわれている毛質だ。
見た目は茶色なんだが。
ダックスフンドだけに、憤怒していないか心配だったが、いつも通りに愛想よくしている。
「さあ、帰ろう!」
ナタリーは少し飛び上がるようにして、歩き出した。
この公園までは、少々距離がある。
この子にも、ちょうどいい散歩になっているだろう。
(しかし、この中身はなんだろう?)
危険なものでないことを願った。
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