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「ねぇ、コーチと話してる人誰だろ」
ボート部員の誰かが発した言葉に、ストレッチをしていた真央も顔を上げた。
そこにはコーチとさほど変わらない風貌の黒いTシャツを着た女性が立っていた。
その人の背中には何かの略と思われるアルファベット三文字が大きくプリントされていて、その下には英語が苦手な真央でも馴染みのある、Boat(ボート)・Canoe(カヌー)・Kayk(カヤック)の単語が見てとれた。
「大学生かな。背中のロゴ、クラブ名だよねきっと」
誰かが呟いた言葉に真央も頷いた。
話していた二人の視線の向きが変わり真央たちを見ている。
「うわ・・誰の事言ってるのかなぁ・・」
「あ、コーチが呼んでるよ。真央じゃない?」
沙織に肘で突かれて目を合わせた途端名前を呼ばれた。
真央が立ち上がり寄って行くと、大学の後輩だとコーチが紹介した。
「丸二(まるに)っていいます。ごめんね練習の邪魔して」
「いえ、とんでもない・・田中です。田中真央です────こんにちは」
真央より頭一つ小柄な丸二は真央の体つきとコーチの顔を交互に見ながら唸った。
「・・・背高いね」
「は?」
いきなりかけられた言葉に、真央は咄嗟に間抜けな返事をしてしまった。
「先輩がコーチしてる高校生が地区予選で記録作ったて聞いたから見に来たの」
「はあ・・・」
「今日一日練習見学させてもらいます。────あ、言い忘れたけど私、T大学の女子ボート部員です」
T大、と小さな悲鳴が上がったのは真央の後ろからだった。
高校からボート競技を始めた真央はこういう事には疎く、T大は全国的にも有名なボート強豪校だった。
そういえばコーチが自己紹介の時に出身大学をそう言ってたような、と真央はぼんやり考えた。
「すみません、私あまり詳しくなくて・・・」
コーチの経歴は以前誰かから聞いたことがあるが、高校時代はインターハイに出場する程の実力のある選手だったらしい。
ひょっとしてこの丸二という人もものすごく強い選手なんだろうか─────見た感じ背は普通で、腕もそれほど筋肉がついているようには見えない。
「大丈夫。じゃあ私コーチと一緒に見てるから」
「はい・・・」
真央は一旦部員達の輪に戻った。
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