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心羽が言う、彼女が自分と出会った日。
その日付まで遡るようにじっと心羽を見つめる大虎に、心羽はふっと息を洩らす。
「大虎が、私に傘を貸してくれた日」
まだ途中までしか遡っていない記憶を飛び越えて、その日を鮮明に思い出した。
それまで上から見ていた以上に目の前にした心羽は小さく華奢で、揺れる前髪に意識が奪われた事。
後ろからかかった声は胸に響き、自然に口元が緩んだ事。
今その声が自分の名前を呼び、その体が自分の腕の中に居る。
じっと見下ろして、一度あらわになったおでこにキスを落とした。
「今日だったか」
「うん、今日だったの」
「……悪い、気付かなかった」
「ううん」
「あー……なんか用意すればよかった」
「ふふっ、カレー用意してくれたっていうのがいいよ」
「……っ、」
「それに、」
「うん?」
「大虎がこうしているんだから」
緩く微笑む心羽の、頭を撫で、頬を撫で、自分の頬へ伸びた手を握る。
そして大虎はこわれものを扱うように、そっと心羽を抱きしめた。
「コレが一番いい」
心羽がうっとりと呟いた。
素肌が触れ合い、お互いがぬくもりを与えあう。
大虎は心羽の耳元で愛を囁くとその腕に力を入れた。
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