もう一つのプロローグ

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『課長は心配性ですねぇ』 そう言って、俺の隣でくすくす笑っていた彼女は、遠い過去。 目の前の彼女は、今までに見たことない姿だった。 柔らかく、優しく、甘く。 慈愛に満ちた笑顔。 眩しくて、目を細めた。 頭では理解しているのに、まだ少し胸が痛い。 41で失恋かぁ…キッツイなぁ… 失恋を再確認し、フッと自嘲の笑みが零れた。 歳食ったって、失恋は堪える。 酸いも甘いも解ったこの歳で、新たな恋愛を始めるエネルギーなんて、もう残っちゃいない。 こんな思いは、二度と御免だ。 きっとこれが、俺にとって最後の恋。 今日ですべて終わり。 もう恋なんてしない。 有名な失恋ソングそのまんまで、余計に笑えた。 そして、どんなに欲しても決して手に入れることのない幸せの構図を目の当たりにし、絶望にも似た諦めを感じていた。
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