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今日のしーちゃんは、いつもと違い面白いほど百面相だ。 ふっと鼻で笑って、ポンと彼女の頭に手を乗せた。 「いいか、しーちゃん。なんでも一人で頑張るな。頼れるもんは頼れ。渚を守るために厚かましく、タフに生きていけ。しーちゃんは、未来を担う子供を育てているんだから、それだけで偉いんだ」 大きなどんぐり眼をまっすぐ見据えると、しーちゃんは下唇を噛みしめて潤む瞳を揺らした。 しーちゃんは偉い。 これは本心だ。 自分が未来の種を残せないとわかっているからこそ、子どもを育てるということは尊いものだと思っている。 だからこそ、少しでもいいから彼女の力になりたいと思う。 赤い火柱を上げていたアパートは、懸命な消火活動のお陰でほどなくして鎮火した。 火事の原因は、1階に長年住んでいた高齢者のたばこの不始末だったらしい。
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