もう一つのプロローグ

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「なーんで、お前がそんな顔してんだよ」 「うっ…すみません」 「アホ。謝るな」 虚勢を張ってケラケラと笑ってみせたけど、上手く笑えていただろうか。 「課長、お久しぶりです」 3年半ぶりに聞いた彼女の声の懐かしさに、時間の経過を実感する。 「ああ、森園、久しぶり。おめでとう」 「ありがとうございます」 はにかんだ彼女の表情は、以前より随分柔らかくなったように思えた。 「あじゃとござまーす」 彼女の後ろからひょっこり顔を出したのは、恋敵のミニチュア版。 「恐ろしい程、岸谷にそっくりだな」 「フフ…よく言われます」 慣れた手つきで、ひょいと子供を抱きかかえた森園。 そして、愛おしそうに我が子の額にかかっていた髪を片手で整えた。 今まで見たことなかった母の表情だった。
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