もう一つのプロローグ

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岸谷は苦笑いしながらも、肩の上で足をプラプラさせている息子に付き合って、わざと肩を揺らし、息子をピョンピョンと弾ませた。 すると、「アータ!もっと!もっとぉ!」とキャッキャと喜んでいる。 「凛、父ちゃん、好きか?」 「とーちゃ?」 俺の質問にキョトンとした表情をしたが、すぐに「あ!」と声を出し 「アータ、だーいすき!」 と満面の笑みで応えた。 子供は感情をダイレクトに表現する。 その純粋さが大人達の感情を動かす。 歳を積み重ねるにつれ消えゆくものを、ふと思い出させてくれる。 周りにいた大人達は、あどけない彼を見て、みんな笑顔になっていた。 「ちゃんと『父ちゃん』だって、認識してるぞ」 「…そう、みたいですね」 軽くポンと背中を叩くと、少し照れ臭そうに頬を緩ませ、岸谷は目を細めた。
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