考える人

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  僕は気が弱い。 いや、というよりも気が小さい。 度胸がないというか、臆病者というか、何だか結局全部同じ意味なのかもしれないが。 周りの視線が気になって、自分の意思を貫けない。 聞こえるはずのない周りの声を勝手に想像して、正しい事を思いきり出来ない。 とにかく、そんな性格だ。 例えば、満員電車。 運よく座席を確保し、仕事帰りのくたくたの身体を、小気味良い揺れに委ねる。 駅で停車し、自分の座席に一番近い入口から、お年寄りが乗ってきた。 僕は横目でそれを確認して、心の中で全力で願う。 どうかこっちに来ませんように。 ところが老人は吸い寄せられるように僕の前にやって来て、重そうな荷物を持ったまま、棒のような両足で立ち尽くす。 やがて電車は出発し、その反動で老人の細い足がトタタと不規則なタップを踏む。 僕の頭は全力で、『正しい事』をすべくおろおろと惑い始める。 席を譲ればいいのだ。 颯爽と立ち上がり、「どうぞ」と笑って促せば済む話だ。 周りの皆も、いつ僕がそうするのかと、無責任に待っているはずだ。 でも、考える。 もしも僕が立ち上がり、「どうぞ」と右手で促した瞬間、老人が怒ってしまったらどうしよう。 「わしゃ席を譲られるほど年老いとらんわ!!」 怒らないまでも、 「いやいやお構い無く」 と笑顔もなくそっぽを向かれたら。 或いは、 「次の駅で降りますからけっこう」 そう切り捨てられると、かなり虚しい。
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