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警察署の雰囲気は苦手だ。
正面入り口の左手が駐車場で、そこには三台のパトカーが並んでいる。
揃いも揃って僕を睨み付けているように感じるのは、まあ、完全に気のせいだ。
別に悪いことをしてるわけじゃない、と何度も自分に言い聞かせて、ゴクリと生唾を飲み込んでから、一歩を踏み出した。
中に入ると、やたら長いカウンターが左右にツーーッと広がっていた。
その奥では、やいのやいのと忙しそうに、制服を着込んだ男女が働いていた。
この忙しさが本物ならば、この街は物騒な問題を沢山抱えていることになりはしないか。
などと、少し不安になる。
向かって右手のカウンターでは、若い婦警さんが老人を相手に声を張り上げている。
「眼鏡はもってないんですかー?! あのね、この検査が合格しないとー、免許証は更新出来ないんですよーう!」
どうやら運転免許の更新に訪れているらしい老人だが、視力検査に通らない様子。
お気の毒と思いながらも、その付近から離れたカウンター越しに、奥へと声をかけた。
「すみません、落とし物を拾ったのですが」
すると近くの女性が顔を上げて、驚くほど無愛想に、向かって左手を指差した。
「落とし物の係はあちらです」
「分かりました」
頷きながらも僕は僅かに、胸にざらつきを覚える。
警察署を訪れる人間は皆、何か悪さしたかのような前提のあの視線。
わざわざ落とし物を届けに来たと、そう言ってるのに、なんだあの態度は。
僕は善良な市民なんだぞ、多分。
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