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「シオン、無理強いしすぎですよ」
突然、シオンの横の方から軽く柔らかな声がした。
「サクラか…」
シオンが声のした方を見た。
すると、どこからともなくとても綺麗な私の掌ぐらいある蝶が沢山飛んできた。
蝶はだんだん集まって人の姿を形づくり、一気に光を帯びてシャランという音とともに割れた。
後には、淡いピンクの髪で眼鏡をかけている、真面目そうな美少女が立っていた。服装は桜が描かれている綺麗な着物だ。この少女が着るとさらに綺麗に見えるから不思議だ。
「こんにちは、シオン。そしてアネモネ様」
なぜか様を付けられた。
「なんで私の名前を知っているんだ…知っているんですか?」
なんとなく敬語を使わなければいけないような雰囲気をしているので敬語を使って聞いた。
「あらあら。別に敬語なんて使わなくていいですよ。アネモネ様のことを知っているのは、さっきまでの話しを聞いていたからです」
「つまり盗み聞きしていたわけじゃな」
シオンが冷たく言う。
だが、少し口がほころんでいるのできっとこの人に会えて嬉しいのだろう。
「盗み聞きとは失礼ですね。ちょっとシオンに用があったので来たのですが。あ、アネモネ様、自己紹介が遅れましたね、私はサクラと申します。虫の神龍を務めています」
そう言ってサクラは優しい笑みを私に向けた。
「神龍って…え?!龍じゃないじゃないか!」
「ああ、神龍は人間の姿になることもできるのです。その方が移動も楽ですしね。まあ、魔法は使えなくなりますが。…シオンはなぜ神龍の姿なのです?もう用は呼んだのだから人間になればいいのに…まさか忘れていたのですか?」
「!ち、違う!あ、あれじゃ…ほれ、妾が神龍っていう証拠を見せた方がいいじゃろ?じゃから人間の姿になるつもりなどなかったんじゃ!」
…絶対嘘だな、慌て具合を見るに。絶対忘れてたんだろう。
「コホン、話しがずれましたが、アネモネ様はまだ気持ちの整理がついていません。なので、無理強いすることはないかと」
「確かにそうなのじゃが…」
シオンは渋い顔をした。
「うーむ」
シオンが眉を潜ませる。
なぜかその姿を見ると胸が苦しくなった。
「私、やっぱり引き受けるよ」
気がつくと、私は勇者になるのを引き受けてしまっていた。
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