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私は諦めずにまた車を走らせる。
まずい、そろそろガソリンのメーターが残り少ない。
私は焦った。すると、遠くにあの店が見えてきた。
私はほっとした。よかったぁ、これでなんとか帰れる。
あの店の主人に聞いてみよう。そう思いながら車をあの店に向けて走らせた。
電光掲示板が見えてきた。
そこには「魔界へようこそ」と表示されていた。
私は凍りついた。
いったいあの店に何が待っているのだろう。
しかし、もうこうなったら、あの店に聞くしかないのだ。
駐車場に車を停めた。
あの電光掲示板はまだ、「魔界へようこそ」の表示のまま止まっている。
悪戯なのだろうか。そうよ、何かのイベントがあるに違いないわ。
「いらっしゃいませ。」
見覚えのあるマスターがこちらに顔を向けて挨拶をすると、ウエイトレスの女性がお冷を運んで来た。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。」
店内を見回すが、何か特別なイベントが開かれるような雰囲気も無い。
私はホットコーヒーを注文し、マスターにたずねた。
「あの、道に迷ってしまったんです。どうやったら、国道に出られますか?」
あの経緯を説明しても、とうてい信じてもらえないだろう。マスターはキョトンとした顔をした。
「ここは、一本道なので、ずっとまっすぐ行けば国道に出られますよ?」
思った通りの答えが返ってきた。そんなことは、私も知っている。国道に出られなかったんだってば。
「お待たせしました。」
ウエイトレスの女性が、ホットコーヒーと、小さなお菓子を運んで来た。お饅頭のような、ケーキのような不思議な形のお菓子だった。お世辞にも美味しそうには見えない。
「あ、あのっ、コーヒーしか頼んでませんけど?」
そう言うと、ウエイトレスは下を向いて何も答えなかった。そういえばこのウエイトレスさん、ずっと下を向いてて、顔がわからない。髪の毛も黒髪をだらりと顔の横に垂らし、わざと顔を見せないようにしているようにも見える。私は興味本位で顔を覗きこんで、ひっと叫びそうになった。顔の半分が爛れて今にも溶け落ちそうな状態だった。
私は罪悪感にかられた。顔を見られたくないから、髪を垂らしているのだろう。少しでも不衛生だと憤慨した自分を反省した。
「サービスですよ。」
ウエイトレスさんの代わりに、マスターがカウンターの中から答えた。
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