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ふと、目が覚めた。辺り一面見渡すような白い空間。その白い空間に、巨大な大木が生えている。その大木の根元に、一人の隻眼の老人が寄りかかっていた。
「目が覚めたか、若いの」
この空間全体に響き渡るように、深く落ち着いた老人の声が響き渡る。体を起こすと、とても体が軽いことがわかった。だがそんなことよりも気になることがある。
「自分は自殺したはずではなかったのか、という疑問じゃろ?」
まさしくそのままのことを言い当てられ、硬直する。そうだ、確かに自分は自殺したはず。首を思い切りかききって。
無意識に手が首に伸び、切り裂いたはずのところをそっとなでる。
そこには傷のようなものは何一つなく、あのぬるぬるとした嫌な手触りも感じなかった。そのまま自分の胸に手を伸ばす。だが、心臓はまったく動いていなかった。
「たしかに、お主は自殺した。自らの首をかききってな。ここは……まあ天国のようなものじゃとおもってくれてよい。わしの領域じゃ。」
老人が訥々とかたっているが正直どうでもいい。今の自分にとって一番の重要事項はあの地獄から逃げ出せたことだ。天国とか地獄とかがあるとはおもってなかったが。
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