敷き布

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敷き布

 久々の帰省の折、季節の果物を手土産に持って帰った。  まずは仏さまに…と仏壇に土産を供え、翌日か翌々日くらいに家人で食べるつもりでいたが、翌朝、何故かお供えがなくなっていた。  父母兄弟、誰に聞いても知らないというが、備えてあった果物が勝手にどこかへ行く筈もない。  誰かがこっそり食べて嘘をついているのだろうか。そんな疑いが湧いたが、元々自分で食べるというよりは、食べてもらうために買ってきた品だから、特に追及はしなかった。  その翌日、近所でお裾分けを頂いたと、母が数個の果物を抱えてきた。  習わしで仏壇に供え、また、明日か明後日にでも食べようと取り決める。だけど翌日、供えた果物は綺麗さっぱりなくなっていた。  もしや、泥棒でも入っているのではないだろうか。  今度はその考えが強くなり、私はこっそりと仏間を見張ることにした。  昼の内に買っておいたお菓子を供え、家人が寝静まったのを見計らって仏間に入る。  できれば泥棒なんて入って来なければいい。本当は家族の誰かがこっそり、何かの理由でこっそり持ち出しているだけだといい。嘘をつかれたことには腹が立つだろうけれど、絶対泥棒よりその方がマシだ。  そんなことを考えながら、真っ暗な仏間で仏壇を見据える。  異変は午前二時を回った頃に起きた。  突如、仏前に敷いた布の四隅が持ち上がったのだ。  ここにお供えを置きなさい、とばかりに敷かれている布の角が残らず持ち上がり、上のお菓子を包むように閉じていく。  完全にお菓子を隠すと、今度は敷き物全体が大きく上下に揺れ出した。  咀嚼している。直感的にそう思い、私は、敷き布に伸ばそうとしていた手を引っ込めた。  これは触ってはいけないものだ。その考えが私の動きを止める。  やがて、するすると敷き布は元の形に戻ったが、そこにお菓子は見当たらなかった。その光景をこれ以上みていることはできず、私は大慌てで両親の部屋に駆け込んだ。  その後、まだ夜中だというのに、無理に叩き起こした両親に総てを話すと、私はあの敷き布のことを問うた。
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