木 偶

11/13
前へ
/44ページ
次へ
「わ、滝だ!ちーちゃん、滝だよ!」  子供連れの夫婦と、その祖母らしき家族の一行が階段を上って来るのが見え、私は小瓶をポケットにしまった。  小学校一年生くらいの男の子がこちらに走って来る。それを妹らしき女の子が楽しそうに追いかける。 「りく!勝手に行っちゃ、駄目でしょ。ちーちゃんも危ないから!」  母親は慌ててこちらに走り出す。父親は祖母についてゆっくりと後ろを歩く。  そうしている間に妹の方が私の前まで来て、苔の生えた濡れた地面を踏みつけた。その瞬間に転ぶだろうと思い、体勢を低くして彼女の身体を支えた。 「おっと」  案の定、足を滑らせた少女。 「ここは滑るから、走ったら危ないよ」  彼女は驚いたような表情のまま、私の顔を見た。  しゃがんで微笑み返してはみたが、少女はすぐに駆けつけた母親の方を向いた。 「すみません……ありがとうございます」 「いえ。うちにも二人子供がいるので、何となく危ないっていうのはわかりますから」 「ほら、ちー。ありがとうは?」  母親にそう促され、嫌々彼女は口を開いた。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加