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「ああ、綺麗だ」
ふらつく足元ばかりを気にして猫背になってしまった身体を伸ばす。
見上げれば、星よりもはっきりとした光が明滅を繰り返す。
その光は決して淡くなどなかった。
自分の存在を示すかのように力強く、この脈打つ心臓と同じか、それ以上に懸命に光っているのだ。
「母さんにも見えますか?蛍ですよ」
そう言い、私は帯にしまっていたガラスの小瓶を取り出し、それを手の平に乗せた。
そこに一匹の蛍が止まる。数回明滅し、白い灰を黄色く照らす。
「あ、蛍!」
前を歩いていた五、六歳の子供たちがそう叫んだ。
無邪気な笑みを浮かべながら私の元に駆けつけて来た時には、蛍はスウッと夜空へ飛び立った。
「行っちゃった……」
その一言に泣くまいとしていた私の意思は崩され、目からは涙が零れ落ちた。
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