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「ああ。風呂だ、風呂」
その感覚は湯冷めに違いないとそう信じて、小瓶を机に置き、座椅子にかけてあったタオルを手にして部屋を出た。
ふらつく足で階段を下り、廊下で擦れ違う人にぶつからないよう立ち止まる。
三人ほどやり過ごしてようやく風呂場に辿り着いた。
今朝までは独占できていた風呂場内にも一名ほど先客がいた。
宿泊客がやけに多いのは台風が過ぎ去った後の休日で、皆蛍を見に来ているのだろう。
「仕方がない」
そう呟いて浴衣を籠に脱ぎ捨てるように置き、扉を開けて中に入ると一人が湯船に浸っていた。
なるべく普通を装ってゆっくりと風呂に近づき、手桶で数回、煙が濛々と立ち上るその湯を身体にかける。
それからソロッと足を湯に浸けて滑り込むように一気に中に入る。
「くぅっ……」
意識をしてもしなくても口からそう音が漏れる。
表面はピリリとするくらいの高温で、中はまろやかな肌触りの湯が冷えた身体を包み込むように芯から温めてくれる。
熱さに慣れてくると伸び伸びと肩まで浸かった。
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