生憎心

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「あなた、酔ってらっしゃる?」 「いえ、ああ……少し」 「のぼせないよう気をつけて下さいよ」  そう言って男はゆっくりと立ち上がる。 「それでは、お先に」  こちらに近づき、私の横にある階段を使って上り、男は出て行った。  辺りは静まり返って、注がれる湯の音だけが響く。  ジョロロロロロッ……  酔狂などと言われればそれまでだ。  それよりもさっきの〝のぼせないよう〟という言葉は〝自惚れるな〟という意味を孕んでいたのではないだろうか。  そう思ったら急に腹立たしくなった。  バシャッ  怒りに任せて水面を拳で叩いても湯の繁吹きが自分の顔にかかるだけだった。  自分が立てた波風は必ずいつか自分の元に返って来る。  この世界は因果応報の名の元に支配されていて、私はいつもそれに首を絞められる。  自分の仕出かしてきた行いに毎日怯える。
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