生憎心

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「チッ」  すっかり醒めてしまった酔いに舌打ちをして風呂から上がった。  真っ赤な肌の全身を軽く拭いて脱衣所に戻り、浴衣を羽織る。  風呂場を出た廊下には自分と同じかそれよりも少し若い男女がこちらに歩いて来ていた。  その横を通り過ぎて部屋に戻る。冷蔵庫からまた二本酒を取り出し、それを開ける。  カシュッ  冷たい液体が乾いた喉を潤すのは一瞬で、その心地好さを求めるがために酒を一気に渇食らう。  気づけば広い机の半分ほどが空き缶で埋まっていた。  タバコを手に、ボウッと部屋の空間を見つめる。  母との幼い頃の思い出などよりも、幼い自分の心の奥底に押し込めた、憎しみや悔やみが頭の中を駆け巡る。  母は私を滅多に褒めなかった。  礼の一つも言わず、それどころか、したことに対して文句をつけてくる。  昨日言ったことが今日は異なり、そのルールに従わなければ彼女は怒り出す。  それに反抗すれば半日か一日飯を抜かれる。
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