生憎心

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 少し前にモラルハラスメントなどという言葉が流行ったが、今思えば母はそれだったのかもしれない。  家庭という狭い空間の中で溜まっていくストレスの捌け口が、不器用だった私に向けられただけのこと。  親父や兄貴は器用に彼女の攻撃をかわす。母が辻褄の合わない理屈をいくら並べようと、彼らはそれを聞き流すという術を知っていた。  私は馬鹿正直にそれらを指摘してしまう。  自分が納得しないと動けない性質の私は当然、彼女の攻撃対象になった。  そんな家族という閉塞した社会から逃げることもできずに、一方的に受けた傷を必死に繕うだけの人生に嫌気が差さないわけがない。  だが、それでも、母に愛されたいという思いが子供にはある。それは何も幼少期に限った話ではない。  それは一生続くのだ。  叶わない願いと知っても尚、彼女の愛を求める。  だから私はこの思いを自分の墓まで持って逝くことにしたのだ。  そう決断した矢先に彼女は死んだ。  これが天の悪戯でなければ母の最期の嫌がらせか。
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