木 偶

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 ブルルンッ  拒まれているのではないかと思うほどに空は荒れていた。  だが、それも無理はない。半年以上ここには来ていなかった。  それが突然理由も述べずに仕事を休み、周りにサボりだと思われているような奴が、ここにこうして訪れているわけだから迷惑極まりない。  バスが滝の中に入ったかのように水が流れていくだけの、景色など見えもしない窓をただボウッと私は眺めていた。  十五分ほど乗ってブザーを押し、停車したバスを降りた。  バケツをひっくり返した雨の中、目の前の宿へと駆け込む。 「お待ちしておりました、神田様」  変わらず、いつもの女将が対応してくれた。  両手に袋を持った私を見て、中の廊下に繋がる扉を開けてくれる。 「すみません」 「今日は雨で露天の方がぬるくなっていると思いますので、内風呂で温まって下さいね。それでは、ごゆっくり」  親切にそう言葉を添える彼女に軽くお辞儀をし、その奥の廊下を行く。  ちょっとした庭園のように飾りつけされた草木があり、そこを左に曲がると露天風呂。  さらにその奥の段を上がって自分の部屋に向かう。  本来ならば部屋の前まで女将が案内してくれるのだが、常連の私はいつも鍵だけもらって勝手に部屋に行ってしまう。  その方がお互いに楽だからだ。
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