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カチャッ
マンションの玄関のドアを開けると、長男の斗夢とその下の愛梨がこちらに駆けて来た。
「あ!パパだ!お帰りなさい」
五歳の愛梨がそう叫び、私の足に絡みつく。それに私は笑みを浮かべながら、彼女の頭を優しく撫でる。
「愛梨、いい子にしてたか?」
「うん!」
七歳になる斗夢は私の持っていた紙袋を引っ張る。
「ねえ、何買ってきたの?」
「ああ、こら。今ちゃんと渡すから、引っ張るなって!破れちゃうだろ?」
その私の大きい声に気づき、恐らくキッチンにいただろう妻の絵梨がこちらに近づく。
「お帰りなさい、あなた」
「ただいま、絵梨……ああ。ほら、斗夢。お土産のお菓子だぞ」
紙袋ごと彼に渡すとその袋を覗いたまま奥の部屋へと走って行く。愛梨もそれについて行き、廊下にバタバタと足音が響く。
靴を脱ぎ、それが静まってから絵梨の顔を恐る恐る見た。
「きちんと……海に流してきたよ……」
無理に押し出した自分の声は震える。
「そう」
私はあえて何を流してきたのかは言わなかった。それでも彼女はそのすべてを見透かしているかのようであった。
「おかえりなさい」
改めて彼女はそう口にした。その一言に我慢していた涙が目から零れ出た。彼女は菩提樹のように凛とした態度で、背を丸めて咽び泣く私を抱き締めていた。ー完ー
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