解 説

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 暗闇のタバコの火は蛍を思わせる程の小さな明かり。その明かりに照らされた人生における救い(芥川龍之介の小説の蜘蛛の糸と重ねている)は縋るだけ自分の醜さを増幅させる『一縷の望み』だと主人公は考える。  同時に救いの手を指し述べる釈迦に対して怒りを覚え、その思いは自分を産んだ母への憎しみと繋がる。  救いの手があっても縋れない主人公の苦悩に反して、目の前の窓に広がる清々しい朝が自死に対する迷いを生じさせる。(=葛藤) 『目的もなくブラブラと』とあるが、死ぬことが目的だった彼にとってこれといって行くところはない。  台風後の晴天と増水した滝という自然の壮大さを前に、自分という人間の存在の薄さを感じている神田。  そんな考えを改めようと深呼吸を繰り返すが、長年の癖は抜けない。  ここでようやく彼が苦悩する事柄について述べられる。 (遺灰が入った)小瓶の雫は、長年抱いてきた主人公の苦悩に、母が泣いているように思えて彼はほくそ笑む。  その直後にやって来る家族に、自分の今の家族を重ねる主人公。  そこで振る舞う姿は本当の自分ではないと認識しながら、いつものようにしてしまう。  そんな偽善的な自己に振り回されている(自分がないままの人生=操り人形=木偶)ことを嘆きながら、いつまでも夜(=地獄)から抜け出せない自分を揶揄する。  そんな姿を照らす陽光でできた影は、色濃くはっきりと彼の存在を示している。
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