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「くうぅ……」
口から漏れ出る音と共に身体に染み込む熱い湯。誰もいない広い湯船に一人肩まで浸かる。
雨なのか湯が流れていく音なのか、それとも川の音なのか。
終始ザーッというテレビの砂嵐のようなBGMが風呂場に響き渡る。それに混ざる自分の心臓の鼓動。
トットットッ
その心地好さに眠気を覚えた頃、湯から上がって軽く身体を拭く。
湯気で曇った鏡の中には茹でられたタコのように赤く色づく自分が映った。
一旦脱衣所に出て、正面のドアから露天に出る。オレンジの灯りに照らされた屋根の下の大きな岩。
そこにタオルを置き、視線を前に向けると、その屋根に溜まった雨水が流れ落ちて湯船には立派な滝ができていた。
ドドドドッ
火照った身体を冷やそうと悪戯にその天からの滝を背に受けてみる。
肩と背中を警策で打たれ続けているような、まるで修行僧にでもなったかのような気分にさせられる。
身体が冷えてくるとそのまま下に広がる雨で薄まった、温水プール程度のぬるま湯に浸かる。
いつもなら釜のように濛々と立ち込める湯気もこの日はなかった。
旅館の屋根に囲まれた四角い空に目をやろうとも黒にしか見えない。
次第にそれが上なのか下なのかもわからなくなる。
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