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それが奈落の底に思えてきた頃、風呂の屋根から垂れ下がったクモに視線がいった。
「おまえは釈迦の使いか?」
露天を照らすオレンジ色の灯りに反射し、糸がキラキラと光る。それに息を吹きかける。
「俺よりも、もっと救うべき奴のところに行け」
そんな言葉が通じたとは思わないが、クモは尻から出していた糸をスッと昇って行き、あっという間にその姿を消した。
もう一度内風呂で身体を温めてから部屋に戻った。
「ああ、いい湯だったよ」
部屋は先程と変わらず、机の上にはタバコの吸い殻が入った灰皿と空き缶が並ぶ。
浴衣の裾をめくって座椅子に腰かけ、またタバコを吸い始める。
視線の先の黙ったままの母に私は顔を俯かせる。
「ああ……すっかり酔いが醒めた。飲み直しだ」
そうして冷蔵庫から数本の酒を取り出して飲む。
菓子と乾き物だけを食べ、後は飲み物だけで腹を膨らませて気づいた時は布団の上で眠っていた。
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